第87章

田中尚哉が出発する日、加藤柚奈は見送りに空港まで来た。手には持ちきれないほどの荷物。あれこれと世話を焼き、口を開けば心配事ばかり――その一言一言が、全部「気にしてる」からこそだと分かるほどに。

だが田中尚哉は上の空だった。くどくど続く声にうんざりして、眉を寄せて視線をやる。

「お前、俺の母親にでもなるつもり?」

そのうるささ、母親といい勝負だ。

加藤柚奈の表情が一瞬固まる。……いったい誰が「男にはこの方法が効く」なんて言ったんだ。彼女は深く息を吸い込み、言い直した。

「うるさいなら、もう言わない。……ただ、不安だっただけ。じゃあ、気をつけて。早く帰ってきてね」

田中尚哉は淡々と「...

ログインして続きを読む